背景:
膀胱は尿を貯めるために非常に柔軟ですが、多くの脊髄損傷(SCI)患者では、排尿筋外括約筋協調不全(DSD)などによって排尿の柔軟性が徐々に失われてしまいます。
これにより膀胱コンプライアンス(膀胱の伸びやすさ)が低下し膀胱内圧を高め(低コンプライアンス膀胱)、尿路感染症や腎不全を引き起こします。低コンプライアンス膀胱の治療には腸管を使用した膀胱拡大術や尿路変向術が行われますが、術後合併症の術後リスクが高く、新しい治療法の開発が求められています。
これまで、骨髄由来間葉系幹細胞(BMC)とGenocelからなるグラフトが、正常な動物の膀胱や尿管などの尿路組織の再構築を促進できることを確認していました。本研究では、脂肪由来間葉系幹細胞(AMC)とGenocelからなるグラフトを作製し、SCIラットモデルに移植して、膀胱コンプライアンスおよび膀胱組織を改善できるかを検討しています。
論文での使用方法
AMCシート2枚を積層してGenocelに付着させたグラフトを作製し、SCIラットモデルの排尿筋を切開して膀胱上皮を露出させた部分に貼り付け、吸収性止血材で覆い固定しました。対照群は、AMC+Genocelグラフト移植群と同様に膀胱上皮を露出させてから、吸収性止血材で覆いました。各評価は移植4週間後に実施されました。
結果
・対照群と比較して、AMC+Genocelグラフト移植群は、規則的な排尿間隔となり、排尿間隔も長くなり頻尿(膀胱過活動)が改善することが分かりました。
・対照群と比較してAMC+Genocelグラフト移植群は、膀胱容量および膀胱コンプライアンスが高いことが分かりました。
・対照群の膀胱では平滑筋層が崩壊していたのに対し、AMC+Genocelグラフト移植群の膀胱では膀胱組織に類似した平滑筋層が形成していました。また、対照群と比較して繊維化が進行していませんでした。
・移植したAMCは、SMAまたはデスミン陽性の平滑筋細胞に分化していました。
・移植したAMCは、損傷組織のリモデリングを促進するTGF-β1および血管新生を促進するVEGFを発現していました。